6/11  エラマラソン(1)

 「俺さ、冬にフルマラソン出る事にしたわ」
 「はぁ??」

いったいどの腹がそんな事言うのだろうか。同居人の突然の宣言を僕は冗談だとしか思えなかった。

 「会社の人とさ、みんなで出ることになっちまって」
 「ふうん」

なるほど。会社関係なら、まあ。しかしマラソンったって、別に42.195km以外のコースだってあるだろうに、迷わずフルマラソンを選択した魚君の思考が理解できなかった。聞けば、一緒に参加する社の他の人間は、別段フルマラソン一本というわけでもないらしいし。

 「マラソン舐めすぎだろ」
 「おいおいwおまえ、《俺ら》三保人がどんだけマラソン得意か知ってんだろ!?」
 「いや、確かにおまえら三保っ子は事マラソンに関しては化け物ぞろいだよ。でもさあ…」
 「なんだよ?」

 (…こいつはいつまで自分が高校時代のままの体力を保っていると思ってるんだろう?)

確かに魚君と同じ地域…羽衣伝説でお馴染みの「三保」という地域に住む人間は、異常なまでに長距離走を得意科目としていた。鬼が嫁のY君もそうだったし、僕が知ってるだけでも9人中8人がそれに該当する。一説には中学時代、いつも浜辺を走らされる拷問のような授業があったせいだとも言われているが真相は定かではない。ただ、皆が皆、恐ろしいまでに長距離走だけ秀でている事実は覆らないし、とにかく何らかの理由で彼らの地元は「そういう事」になっているのだ。

とは言え、それも学生時代までのお話。

とてもじゃないが、この十年まともな運動をしてこなかった魚君に今さら「そういう事」が適用されるとは思えない。

 「まあこれを機に現実を知るといい。絶対無理だから」
 「いやいや、おまえ俺の運動能力を舐めてるら?」
 「ほう…言ったな」
 「言ったよ」
 「後悔すんなよ?」
 「オマエガナ」

こうなると、後はお決まりのパターンである。

 「そこまで言うなら賭けましょうか。わたし走りきれない方に5万円ネ」
 「待て待てw」
 「なんで?自信あるんでしょ?おいしいじゃん」
 「いや、にしても5万は…」

さすがに金額を聞いて渋る魚君だが、それは別に走りきれないと思っているからではなく、大会ルールの「ある条件」を気にしての事らしい。

 「まず、制限時間が六時間なんだよ」
 「ふむ」

普通、一般人がフルマラソンをどれくらいのペースで走るのかは知らないが、これが市民マラソンという事を考えても恐らくはそれほど無理のないレベルの数字であると予想される。

 「ただ、制限時間がある以上、歩いてでも這いつくばってでもゴールするって事は出来ないわけか」
 「ああ、それに、ゴールだけじゃなくて途中でも何度か時間制限があるんだわ」
 「へえ。市民マラソンにしちゃずいぶんと厳しいんだな」
 「だろ?俺はいいけどさ、会社の人と一緒に走ったりすると厳しいルールじゃん、それ?」
 「……」

つまり、制限時間さえなければ余裕で走りきれると思ってるって事になるが、この人本当にすごい。とてもコンビニ弁当とマクダナゥの高継続ループをこの三年、一度も途切れさせたことがない男とは思えない自信に僕は何だか逆に不安さえなってきたぜ…

とは言え、やはりこの鴨を逃す手はない。

 「わかったよ。じゃあ、賭けじゃなくて賞金という形にしようぜ。それならお前もモチベーション上がるら?」
 「マジで!?悪いなぁ、うみさ…」

 「ただしっ!!!」

 「!?」

 「走りきれなかったら…応援してた俺は期待を裏切られて悲しい。となれば当然、わかってるよね?」
 「…いくらだよ」
 「五万。。。と言いたいとこだけど、難易度の高さを考慮して三万ってとこだな。五万対三万!どうだい、ナイスバランスじゃない!」

 「・・・」

この提案を受け魚君は黙り込んでしまった。考えているのだろう、期待値(笑)とやらを。

 (しかし実際どうなんだろう)

こんな提案をしていて何だが、実際マラソンまではまだ半年近くある。この考えこそマラソンを舐めているのかもしれないけれど、いくら運動不足で糖尿病予備軍の魚君でも、半年近く練習すれば何とかなるように思える。

また、現実に走らない僕でさえそう思っているのだ。自信ありげに語る魚君なら二ヶ月ぐらいで何とかなるとか思ってたりするんだろう。

 (そこが狙い目よ!!)

恐らくだが、魚君は練習しない。どれだけ時間があってもせいぜい最後の二ヶ月ぐらい、申し訳程度にジョギングするのが関の山であろう。暇があればパチスロを打ち、暇があればパチスロ動画を眺めているだけの男である。つい先日、泊まりに来た共通の友人がドン引きするぐらいそれらを徹底している男である。

 「5万対2万にしない?」

 (ヒィ~ッット!!!!!!)

想像通り、ダボハゼのような回答が返ってきた。

  「なんで?自信あるんでしょ?ならおいしいじゃん。俺もおまえにやる気出してもらいたいから…なんなら30万対20万にしようか!?」
 「おいおい…」

金額はまだ決まっていないが、自身の肉体を過信している魚君はきっと乗ってくる。僕は心を鬼にして現実を教えてやろうと思う。痛みを伴った改革を。

ついぞ開かれる事の無いまま、未だ棚に眠ったままの行政書士の本こそが僕の自信の源だ。

コメント

  1. kenji より:

    二万五千くらいにとどめるのがいいかと

  2. ( ・ω・)y-~~~~ より:

    君。剃愛に就職しないかね?

  3. 虚無 より:

    その制限があるならどう考えても無理っす…10kmでも日頃運動してない人間にとっては地獄の辛さですよ…。
    久々に魚くんさんの話題を見た気がします。相変わらず香ばしい感じでいらっしゃるようで安心しました^^

  4. がせじろう より:

    外ウマの募集はまだですか?
    陸上部してた高校を卒業して1年過ぎた頃、バイトに遅刻しそうだからと走ったら1km持たずにゼーゼーしてた苦い過去が思い出される・・・

  5. 0.34 より:

    マ、マラソン!?
    しかもフルマラソン・・・長距離走が苦手な僕には考えられない(汗)
    なんせ5キロですら完走した事ないですから、マラソン大会なんぞ地獄そのもの(苦笑)
    「三保」の地域の人が、みんな長距離走を得意とするってのは凄い不思議ですね。
    「三保」の地域に詳しくありませんが、人口の流動性が低い地域なら遺伝性だったりするのでは?

  6. パチエル より:

    ハーフマラソンならともかく、フルマラソンなら外ウマ参加する価値はありそうですねw
    ちなみに僕も三保に知り合いが2人ほどおりますが、
    パワプロ的に言えば、そいつらはスタミナ「G」ランクです。
    三保人を買いかぶりすぎやでっw

  7. おが より:

    また二万というのが絶妙な金額ですね
    こんな鬼畜なギャンブルを仕掛けるとは…うみさんがカイジじゃなくて兵藤に見える(,,゚Д゚)

  8. GULF より:

    俺なんて最近家の階段の上り下りすらたまに息が乱れそうになるぜよ
    というわけで俺も一口噛みたいっ
    というか、魚君はこのブログ見てたりしないんですかね
    そういうことだったのかこの悪徳野郎!とかブログ見て思われてるかもしれないぜ!

  9. ナナシー より:

    ええっと 結論から言うとまず無理です
    今日から毎日5㌔走るのを続ければなんとかなるかもしれませんが・・・まず無理でしょう。ということで外ウマ5万追加お願いしますね

  10. umi より:

    >>kenjiさん
    相変わらずやなw
    >>( ・ω・)y-~~~~さん
    相変わらずやなw
    >>虚無さん
    ですよね!!日頃運動してない人間じゃ無理ありますよね??魚先生は相変わらずスロ中毒者です。
    >>がせじろうさん
    僕も体力には結構自信あった方なんですが、同じく… たまに高校時代の夢を見ますが、起きたときの安心感がものすごいですもんw
    >>0.34さん
    5キロ完走した事ないってのも凄い話だな(;^ω^)… 三保は、あくまで僕の周りの人間だけなんですが、スポーツ学校だったしたまたまそういう人間が集まっただけにせよみんな長距離得意だったのは不思議でした。海岸走るのってそんなに効果あるのかしら
    >>パチエルさん
    ハーフでも何とかなりそうな気がしますが、やはりキツイ条件なんですね。こりゃ本腰入れて勝負の舞台に上げてやりゃなあ!!!
    うちはバリバリ体育会系学校だったので優秀な三保人が集っていたのかもしれませんな。毎日チャリで一時間近く通学してるのも一役買っていたのかもしれません。みんなスタミナ200超えのAって感じでした。全員先発型
    >>おがさん
    仕掛けるけど負けてぐにゃる兵頭でFAw
    >>GULFさん
    おお、Gさんやなかですかwお元気そうでw!魚君もたまにこのブログ見てるようですが、本文でも書いてる通り異常なまでに自信の身体能力を過信してる節があるので、あっちはあっちで僕らを馬鹿め!とか思ってるんじゃないかなぁw
    >>ナナシーさん
    一応、努力次第では可能な範囲って事だよね。んじゃあまり金額上げすぎると危険だな・・・ あいつに言い訳を用意させてやらんとな。。ふふ
    しかし外ウマ集まりすぎだろw