9/25  ユーは何しにブラックへ?

事の発端は二日前、いつもと違うガードマンさんが僕らの班についてきて・・・っと、まず配置を説明するか。

僕らの班の今やっている工事は高所作業車を用いるもので、高所作業車を公道で使用する場合はガードマンによる交通誘導が必要と法律で定められている・・・らしい。

なので基本、ブラック会社の仕事にはガードマンが付くことがほとんどで、大体車両毎に固定メンバーが決まっているのだが・・・ その日はいつものガードマンのオッサンが病気で休んでて、どこからかやってきた年齢不詳の人が僕らの班に配属となったわけだ。

 「あっ、それそのまま落とす系?ヤバイわー」
 「は、はぁ・・・(;^ω^)」

初手から何かヘンだと感じていた。

まずこちらが敬語なのに相手が常にタメ語なのが非常にイラつくが、そうじゃなくても柳原加奈子(だっけ?)だかブルゾンちえみだか、それともナオミだかわからんがそんな感じのショップ店員みたいな喋りが最高にUZAI☆ 

 「あー、それ持つ系?やるよ俺」
 「え・・・いやいいです、大丈夫です」
 「なんか見てて怖いんだよねー」
 「(^ω^+)イラッ」

それから基本、ガードマンさんに仕事を手伝わせてはまずいというのにそいつは積極的にこちらの仕事に手を出してきやがるし、それがやる気の現れならいいのだが単なる暇潰しにしか見えない上イチイチ癇に障る動きばかりで・・・

 (なんなのだ?好奇心旺盛な若者という風にも見えなくもないこの行動は・・・)

くたびれたチワワのような顔をしたおっさん。しかしオッサンというには肌が若々しく、そして身体は小さく少年のようなアンバランスさも感じさせる風貌。老けている中学生にも見えるし、童顔のオッサンにも見える何とも言えない存在だ。その不自然さはだんだんと人面犬にさえ見えてきた。

 「あの人いくつなんでしょうね?」
 「あ、うみさんもやっぱり思いました?若くも見えるし、でもほうれい線見ると40越えてそうだし・・・」

25パイセンとこんな話をしながら、気付けば昼休憩を取る間もなく14:30。今週はとにかく忙しかった。今やっている現場もいよいよ佳境を迎えようというところで、結局遅い昼休憩後も予期せぬ事態の連続で気付けば19時前。

 「お疲れさまでしたー(‘A`)」

ようやく終わり、ガードマンさんの出勤簿にサインをした後、その日は特に問題もなく21時の帰宅と相成ったわけだが・・・

 「え?あの人今日は休み???」

いつものオッサンがまだ具合が悪いという事で、なら昨日の人がまた付いてくれるのかと思いきや・・・ 翌日、なぜか出発の段になって僕らについてくるガードマンさんがいないという事態が判明。

急いで他の班から一人貰って事無きを得たが、夕方、その警備派遣会社の上司?担当の人が僕らにわざわざ謝りに来てくれた。そして・・・

 「すみません、うちの○○が・・・実は昨日、仕事をしすぎて足が痛いと病院に行ったらしくて・・・」
 「えっ!?」
 「ご覧になられたと思いますが、○○は虚弱体質というか・・・とにかく食が貧弱なのか栄養失調のような状態でして。あれでもまだ三十前半なんですけどね」
 「マジっすか!?」
  「ウエストも私の太股より細いぐらいなんですよ、ですからその・・・」
  
 (ですから???)

 「○○は今後、17時で帰らせてやって頂けないでしょうか」
 「!!!????」
 「実は昨日も残業なんて聞いてないぞと文句を言われて・・・」
 「(;^ω^)」

おいおいちょっと待てよと。

まずそんな身体で過酷なガードマン家業をやるなと。そもそも食が貧弱なのに薄給激務のガードマンなんてやってたらいつまで経っても改善しねえだろうと。いやその前にガードマンだけ17時に帰られたら仕事にならないんですが、と。

様々な言葉を胸に秘め、しかしそれは一応先輩でありこの場の責任者でもある25パイセンが判断する事。僕は苦笑いしかできない。

 (さすがにパイセンも上司に言うだろうしな。そんな面倒な人はやめてくれって)

・・・そう思っていたのだが、翌日もヤツは来た。何食わぬ顔をしながらやってきた。相変わらずウザいショップ店員のような喋りを振りまきながら・・・

そして17時、チワワの鐘が鳴る・・・

 

そのとき現場は突然の雨で、ズブ濡れになりながら僕とパイセンは外の作業をしていた。17時の鐘は聞こえていたが、まさかまさかと思いつつ僕は何も言わない。パイセンも何も言わない。どの道作業はもうあとちょっと、20分もかからず終わるところだ。実を言うとチワワが来たので今日は早めに上がりましょうという話を朝の内にしていたぐらいである。

 

「あの・・・五時なんですが、どうします?」

 

しかしチワワ、空気を読まずに言う。わざわざ言いにやってくる。
 

 「どうします?」

こう言ってるが、実際「話は聞いてるよね?17時だから帰らせろ」という事である。

僕はこの時見逃さなかった、パイセンが呆気に取られた表情の後、グッと言葉を飲み込んだのを。

 「あーはいはい。書きますよ書きますよーサインですねお疲れ様」

当然ですと言わんばかりにズブ濡れの僕らを置いてチワワは去った。幸い施設敷地内作業だったため、交通誘導員のいらない場所だったので事無きを得たが・・・他の現場なら、例えば公道ならどうなっていたか・・・(;^ω^)

確かに残業は嫌だ。それはわかる。そのために鬱病になったりするぐらいなら潔く辞めろというのもわかるし、よくまとめサイトなどで「新人が定時きっかりで帰りやがるw」みたいな記事を見かけると「そういう時代だしな~」なんて思ったりもするのだが・・・

実際、警備会社で8-17時の契約でやってるとすれば彼の行動はそこまで非難される事ではないと思う。

だがっ・・・だがっ・・・!!実際目の前でそれをされると途端に別の事を思う自分がいたのだ。現場の情況を考えろよ、と。サービス残業を強要しているわけじゃないんだからと・・・。残された俺等の事も考えてくれよとまるで僕が忌み嫌う社蓄のような思考の奔流。

でもそういうのって「仕方の無い」事なんだから・・・

 (と思ってしまうのは俺がブラック企業に慣れすぎたせいなのかしら??)

少し前まで僕も残業は嫌なので帰らせてくださいと平気で言いそうな男であったのは認める。しかしこの情況で同じことが言えるだろうかと言われれば・・・

 (身体は弱いが何と言うメンタルの強さ・・・w)

恐らく数日中にいなくなっていそうな彼。とも言い切れないのが現状の交通誘導員不足なのだが、実際残業が売りのブラック会社であのような人材は使い勝手が悪すぎるよな。

三十前半なら他にもまだやれそうな仕事はあるだろうに、なんだってまた、こんなところへ。