住宅街で仕事をしてると何やら声が聞こえる。初めそれは外へ漏れたどこかの家の会話だと思っていたが、間断なく降り注ぐそれは余りに何かを訴えかけていた。
「・・・ッ!?」
ふと目の前の家の庭を見ると、垣根の隙間からこちたを覗く老婆と目が合った。かなりのホラーで気付いた瞬間、「ひっ」と声を挙げそうになったがどうやら声の主はこの人らしい。
「お兄さん、ちょうどよかったぁぁ…」
なにがやねんと思うも、実際本当に何がやねんである。何がどうちょうどいいのか、老婆は続ける。
「ちょっとお願いがあるんだけど、こっちに来てくださる?」
「え?」
「すぐ済みますから!」
「えぇ…」
既に僕の事情などお構い無しに何かを手伝ってもらえると確信した様子。パチ屋の目推しサービスもそうだけど、最近「こういうの」めっきり減ったなぁなどと思いつつも、老人の願いを無碍にはできない。なぜなら今僕はブラック企業の制服を着ているからだ。そしてブラック企業のすぐそばの住宅街で仕事をしているからだw
(有無を言わさぬ態度で断って苦情入れられても面倒だしなぁ)
いちおう、僕にもこれぐらいの配慮はあるのだよ(´・ω・`)
とは言えこちらも暇ではない。この後時間指定の工事があってそれに行かなきゃマズイのだが、まあ一応聞くだけ聞いてから…
「おじいちゃんが倒れちゃってね…助けてくださる?」
「そりゃ大変だすな(´・ω・`)」
そういう事ならしゃああんべえか。一緒に仕事をしていたパイセンら班員に事情を説明し、とりあえず急ぎで様子を見に行く事に。
(ああ、倒れたって文字通り倒れたんだな)
意識を失っているとかそういう話だと思ったが、庭へ入ると状況は一瞬でつかめた。傍らに転がる車椅子、そして文字通り庭先で横になっているおじいさん。そして縁台。
リアルにこの画像のような状態で(裸ではないがw)、おそらく縁台から落ちたのだろう。車椅子に乗り移ろうとした結果なのかな?ようわからんが、なるほどおばあちゃんが救急車など呼ばずちょっとそこらの人に頼みたくなるレベルのミッションではある。
「とりあえず部屋に上げればいいんスかね?」
「そうなんだけど重くて私一人じゃとても…」
「でしょうねぇ」
おじいさんは足が不自由なようだし、加えて歳だしでしょうがないんだろうが、でっぷり太っていて一目このミッションのハードさを物語る。それでもまあ、瞬間持ち上げる程度なら何とかなるだろうと試しに両脇を抱えてみたところ、ズシン…ドッスン・・・ピキッ!!
(これはヤバイッ)
駆け抜ける冷や汗。腰部に牙狼剣が突き刺さる前のエフェクトが走ったような気がしたほどだ。幸いガセだったが次にいつ腰保留に斬馬剣が降ってくるかわかりはしない。
(にしても重すぎるだろ!)
寝た子供などを抱いているとわかるけど、本人が力添えしてくれない状態で人を動かすって存外骨である。きっと死体なんかも大変なんだろうが、この爺さんも足が動かないようなので仕方が無いが、それにしてもこれほど動かせないものか?というレベル。80kgぐらいの米の詰まった袋を上げようとしているようなものだ。…無理だろw
「おい、パンツがズレたぞ!直せ!」
そのくせ当の爺さんはこの態度(‘A`)
まさか僕に言って無いだろうなと一瞬イラっとヒヤッとしたが、幸い(?)お婆さんに言ってるらしく、普段からこんな感じなんだろうなーと思うと…
と言うか、この老夫婦はどうやって生活してるんだろう?とてもじゃないがおばあさんが介護できるレベルの対象ではない。今日はたまたま休みなだけで、普段はヘルパーさんがいるのだろうか?にしてもヘルパーさんだって一人でこういう状況に対処できるのだろうか?持ち上げ方にもコツがあるなんて話は聞くが、だとしてもとんでもなく過酷な労働である。
どこか他人事に思えていたが、そう遠くない将来父や母の介護を考えると気が重くなる。
「手伝いますよ」
「待ってました(‘A`)」
やがてパイセンも駆けつけてくれて、二人がかりで汗だくになってようやく縁側から部屋へと運び上げる事に成功するも、するとすぐさまべッドまで頼むとの追加要請。今更断る状況でもないが、ちなみに縁側から部屋までよりも、床からベッドまでの方が高さがあるんだよなぁ^^;
(婆さん、俺らがいなかったらどうしてたんだろ…)
結局全てが終わった頃には三十分ほどの時間と相当の体力を消費していたわけで…
「ありがとうございます…助かりました」
「いえいえ、それではお大事に」
「あの、なんて名前の会社さんで?」
「あー、お礼とかいいですから!」
「お名刺いただけますか?」
「ほんと、気にしないでください」
この押し問答でさらに5分w
名乗らないのがカッコいいとか思ったわけじゃなくて、本当に急いでいただけだ。それでも粘られたので近くのブラックって会社ですよと告げて出てきたものの、特にお礼の電話などもなく…w
まあそれはいいのだが、この人助けを神も評価してくれたに違いない。
その夜ヘトヘトになって帰った僕はブラック会社の駐車場で他協力会社の車にぶつけてしまうのだが、どうやら当てどころが良かったらしく3万程度の修理代で済んだ。代車代やら含めても十万以内で済みそうで、それもこれも神様のお力添えのおかげでこの程度で済んだのだ、ありがたやありがたや。
情けは人のためならずってか (´;ω;`)バカ野朗!
コメント
学生剤時代、市役所のジムでバイトしてまして、救急法のレッスンあったので受けました。
倒れている人の重さはumiさんが体感したとおり、人の重さは予想以上ですね。
何故なら重心を探せないから、どちらか荷重が偏り普通以上の負担がでます。
私も持ち上げようとして、腰にケンシロウが秘孔突いたような稲妻が走りましたよ泣
アタイの会社も仕事量はブラック企業ですのでカイジ風に言うなら地道にいこう、です。
アタイ:ふう、やっと帰れる。
イケイケ上司:●●くん、今、仕事が入ったからやるよ。隣の課の仕事やけど
アタイ:?(なんで隣の課の仕事まで?)
イケイケ上司:まああの課の部長は駄目人間だから仕方ない、こっちでやるよ
アタイ:わかりました(帰らせろよ)
仕事見てみたら次の朝までコース!
ひでぶ〜(´Д`)
定時に帰りたい
ギックリ腰危機一髪でしたね(*´Д`)
介護とか出来る気しないからヘルパー頼みたいけどそうなるとマネーが
要りますなぁ・・・不謹慎ですが健康なうちにポックリと往生してほしいし
自分もそうなりたいと思うのであった。
こう言っちゃあれだがうみさん運転下手よな
言い訳イクナイ
もし人を撥ねてても同じ言い訳出来ますか?
以前爺さんの介護してましたが常に同居している人がなんとかできないことができた時点でほぼ詰んでます。無理せず余裕を持って介護ができないと共倒れですし。
次同じようなことがあったら赤の他人であれば断ったほうがいいかと。
過去に一度深酒でぶっ倒れ嫁(まだ彼女だったか)を呼んだまでは良かったのですが起きれず嫁も起こせず朝までコンビニに放置されたのを思い出しました
朝まで付き添ってくれた嫁に感謝ですね
>>愛知のクマさん
なるほど重心がポイントなのか…と言われてもよくわからんが(;^ω^)w
救急法のレッスンで思い出したけど以前倒れてるオッサン見てAEDなどの講座受けようと思ってたのすっかり忘れてましたwこういう所で生きるのならやっぱり知識だけでもつけておくべきかなー
さすがに僕んとこは朝までコースとかはありませんし、あったとしても夜勤扱いで翌日休みになるんですが…なんつーかクマさんとこは想像だに出来ない世界ですね^^;自分が倒れる側にならんよう気をつけてくださいw
>>三重県人さん
老人ホームに押しやる人の気持ちが少しわかった気がしました。これだけならまだ…と思えるけど認知症まで発症しちゃったらさすがにやっていける自信がありません。。とは言え親だとそうもならないのかな?試してみるには重過ぎる(‘A`)
自分に関しては本当、安楽死法が制定してたら使いたいと常々思っております。
>>仕事嫌いさん
薄々感づいていましたが、やっぱりそうなんでしょうね(;^ω^)
ただ言い訳させてください!今回のはいつも乗ってる乗用車でも、まだ不慣れなバケット車でもなくさらに大きなユニック車というものを、込み込みの駐車場内で邪魔だから動かしてと頼まれた折に起きた出来事でして… 曲がりの見通しの甘さと、切り返しの際の目測誤りと完全に起こるべくして起こった事故でした(‘A`)
せめて誘導つけるべきだったな…
>>名無しさん
ブログ用に多少おちゃらけて書いてはいるが、へこんでるし反省もしてるんだぞ。そもそも人を轢いてたら暢気にブログなんて書いてませんがな…
ぶつけた言い訳は上のコメの通りだけど、別にこういう工事車両多い場所じゃバックでぶつけちゃうなんてそこまで珍しい事じゃないでしょー。不謹慎厨みたいな事言わんといて(‘A`)
>>あおめがねさん
うーん、このコメは全面同意というか全くその通りだと思うのですが、その場合今回断るにしてもどうすべきだったのかなーと考えちゃいますね。会社の制服云々は半分ネタですけど、無碍に断ったらあの人らは救急車を呼ぶのかヘルパーを呼ぶのか、はたまた警察でも呼ぶのか…
赤の他人とは言えど先の見えるトラブルは気になってしまいます><
>>ヨシホイさん
酒で死にすぎた僕には他人事じゃないが、とりあえず最後に「そのとき朝まで付き添ってくれた人が今の嫁です」と付け加えると良いと思いますw