町外れ、田んぼに囲まれた一角でその日最後の業務を終えようとしていた時だ。
「ここですか、雷が落ちたとか言うのは」
「落ちたっていうか…まあ、そうだな」
町内会の依頼でやってきた街灯交換。最近多いゲリラ豪雨の際に、ここいらに雷が落ちて街灯が壊れたと聞いていたので何かとんでもないものが見られるんじゃないかとワクワクして来たものの…
(なるほど、確かに器具が故障しているが)
期待していた真っ黒こげみたいな状態ではなく、単に過電流による故障なんだろうが外観は特に何も変化はない。これでは雷が原因かどうかまではわからないけど、まあ、壊れている以上は交換はしていくが…
(良し、と…ん?)
器具を取替え電柱から降りようとしていると、なにやら視線を感じる。振り向くと向かいの家の窓からおばさんがこちらを不審そうな目でじっと見つめているではないか。
(べ、別にあんたの家を覗いてたわけじゃないんだからねっ!!!)
目が合ってしまい若干気まずいが、こちらに非があるわけでもないので平然と撤収作業をしていると、やがてガチャリとその家のドアが開いた。
「!!?」
なんとオバサンが家からのそ~っと出てきたではないか。
(なんだ!?まさか直接文句を言ってくるつもりなの!???)
びっくりして身構えていると、向こうは怪しげな目つきを隠そうともしないで真っ直ぐこちらに近寄ってきた。
「えっ、あっ・・・、こ、この間雷が落ちたとかなんとか(;^ω^)」
「そう、それなんだけど~!」
「え!?」
あたふたしながら言い訳めいた事を言ってみたらおばさんが乗っかってきて再度のびっくり。てっきり警察呼びますよ?とか言われるとばかり思っていたので、急にしなを作りながら愛想を振りまき始めた目の前のおばさんに今度はこっちが不審がるターンである。
「実はね、あそこなんだけど・・・」
媚びを含めた声でおばさんが自宅の屋根を指差す。
「ほら、あまどい」
「あまどい?」
「あそこ、屋根のところ」
「…ああ、雨樋が外れてますね」
「…ね^^?」
「…え?」
どうやらおばさんの言い分はこうだ。
『あんたら昇柱作業するくらいなら、屋根の上の雨樋ぐらい直せるよね☆』
現場はのび太君の家のような二階建ての一般的な住宅。雨樋が外れているのは二階の一番高いところの屋根なのだが、のび太君の家のように二階の部屋から屋根に飛び乗って作業することは…
「屋根上は脚立かけられませんねありゃ」
「となるとスライダー(伸びる梯子)掛けるしかねえけど…」
屋根の上に立つことはできそうだが、それでは雨樋まで手が届かない。しかし脚立は置けそうにない足場のため…と、一応は現場を見て先輩とこんな会話をしてみたものの、
(待て待て。そもそもアレって俺らの仕事か(;^ω^)?)
さてこんな疑問が沸き起こる。
確かに雨樋が外れてるだけで、はめ込んで固定すれば終わりそうな案件ではあり、恐らく僕でも出来るだろう。ただ、今車にはスライダーは積んじゃいないし、やるとすれば一度会社に帰って道具を取ってこなければならないし、面倒くさいし…
そもそも電気工事士の仕事じゃないし(;^ω^)
「どう?出来そう?台風来る前に直せると助かるんだけど…」
「と、言われてもなぁ…」
既におばさんはやって貰えるものとばかり思っているようだが、やるやらない以前に一つ大きな問題がある事を忘れてはならない。
「先輩、これやるとしたらお金どれぐらい取るんですか?」
「ええ?こんなの受けた事ねえから知らねえし、そもそもやるつもりなの!??」
パッと見、素人から見ると雨樋を嵌めるだけで簡単そうっちゃ簡単そうに見えるが、そこに至るまで若干面倒なこの作業。先輩は安請け合いすると後が面倒だからやりたくないオーラ全開であるが、まあ同じ町内だしこういうところから仕事が広がる事もあるしで僕はやってもいいかなという感じ。
「まあうみ君がやるならいいんじゃない?」
「出来らぁ!」
と言うわけでやってやらんでもないよ?というスタンスを取る事にしたわけだが、この補修…果たして世間での相場はどれぐらいなんだろう。
「ちなみに、僕らこの仕事の人じゃないから、必要最低限の応急処置しか出来ませんよ?」
「いいのいいの!とりあえず見栄えも悪いし応急処置で十分よ!」
「はぁ、それなら…」
「で~…代金なんだけど、」
(きたっ!)
お互い避けては通れないこの話題。とりあえず僕の感覚だと三千円ぐらいでいいかな?って感じだったんだけど、それをそのまま伝えていいものかわからず、とりあえず先輩の意見を
「お気持ちでいいかしら☆?」
(…っ!??)
まさかの先制攻撃。それも「お気持ち」…
(お気持ち…)
(お気持ちって一体いくらなんだw?)
ただでさえわからん代金設定がさらにわからなくなってやいないか、それw?
そういえばよくエアコン工事なんかをしていると、お心付けと言ってポチ袋に千円入れて渡してくれる家があるんだけど、お心付けとお気持ちは一緒なんだろうか?個人的にはお心付けは1000円以下が妥当で、お気持ちはもう少し上という感覚なんだけど、それはあくまで僕個人の感覚であって目の前のおばさんに同様のものを期待してはいけない。
それこそジュース代だけで終わる可能性だってあるが…
千円も三千円も大差ないわ。
そもそも今ここにスライダーがあったらタダでやってあげてもいいくらいなので、まあ出張費用分だけくれればいいやと思い「お気持ち」を承諾。敢えてそれ以上触れずにいるわけだが、こうなると逆に一体いくら払うつもりなのか興味すらあるw
「ちなみに先輩ならいくら取ります?」
「んー。こうして道具取りに帰って行く時点で出張費取るわなー。で、作業代に塩ビ用の接着剤使う分で…まあ普通なら7~8千は取っていいとは思うが…」
「お気持ちっていくらなんですかね」
「さあwアナタが受けたんだから責任持ってやるんだぞ」
「うーい(´・ω・`)」
で、スライダーを取りに帰ったらちょうど事務所に他の班が使っていた高所作業車が帰って来てたのでそれをお借りして現場へ。
「高所作業車使うなら万は越えるな。普通はw」
「まあそれはこっちの事情ですし^^;」
その後先輩に指示してもらいながら高所作業車で楽々作業を終え…一応素人仕事とは言え何かあったら気まずいので接着剤と番線でしっかりと固定する。先輩曰く1万5千円はもらってもいい仕事らしいが、さて…!?
「お兄さんありがとう助かったわー。で、お金なんだけど本当にお気持ちでいいのね??」
「ええっすよ」
「それじゃあ…」
(これは予想外!!)
後で調べてみたら雨樋の補修(嵌めこみ)は相場が5千円~2万円ぐらいだったらしいが、あまりに出来すぎな数字に或いは僕らが高所作業車を取りに行ってる際に、それこそ「お気持ち」を上書きする入れ知恵がどこかからあったのではと邪推しちゃったりする^^;
結局見積もりも出してなきゃ領収書も切れない軽作業だったため、会社ではなく個人の仕事として代金を貰う事となったわけだが、ある意味で正当な対価として客から直にお金を受け取るという一人親方デビューでもあったわけだ。何かこう、給料とはまた別の、意味を持った重みを感じつつ…
それはともかく、こういう「お気持ち」の相場ってどれぐらいなんだろう。
コメント
みかんとか渡されると思って期待してたのに…
お気持ち(BBA)と思って期待してたのに・・・
気持ち程度ってなんとなくですが樋口or諭吉、7割くらい樋口ってイメージ
現場見てないからあれだけど、普通に2万~の案件だぬ
ん?就労中に会社の備品使って小遣い稼ぎなのかな?
てっきり、スイカ貰って終わりかと思っており、まさかの樋口様とはw
台風の影響で、実家では、自営名が表記された看板の支柱がポッキリ折れたり、(これが折れるのか?と仰天レベル)
屋根の瓦が一部がぶっ飛んだり、恐ろしい被害を被ったようです。
サラリーマン金太郎ならそのオバハンは何かしらの権力を持ってるパティーン。
それにしても台風凄かったですねー。台風一過でumiさんの仕事増えるんかな?
>>ドニートさん
みかんwww言われてみれば現物支給の可能性もあったわけか(;^ω^)
そこんとこは全く頭に無かったなw
>>ヨシホイさん
それはもっと頭に無かった、というか考えられなかったな(;^ω^)
お気持ちってそんなイメージなんですか!?僕は三千円~五千円ぐらいって感覚でしたが、現代に残る悪習ですねこれはw
>>豊丸さん
専門業者にちゃんと頼むとそうなのかもしれませんねー。
ただ、しきりに社名聞いたり名刺欲しがったりで(持ってなかったがw)あの様子だとご近所さんにも吹聴してくれるでしょうし、損して得取れ営業出来たんじゃないかなーと(゚∀゚)
>>kenjiさん
うちは社長さん自らそういうのを推奨する会社なのでおk^^
本当は前にやった知り合いの子のエアコンも懐に入れていいって言われてたよん
>>愛知のクマさん
スイカとかみかんとか、いかにもな田舎を想像しすぎですがなw
台風凄かったですねー。ただ静岡は言われてるより全然で、20号の方が強かったなーという印象。ご実家の方大変ですね、怪我などなさそうで何よりでした。動画とか見てても今回のは規模が違ってて恐怖でしたね、どうしても台風って舐めちゃうんだよなぁ。
>>三重県人さん
ばあさんっ!ばあさんっ!!ばあさんっ!!! を思い出してワロタw
台風被害、うちの方は全く無かったですが、大阪とかは大変ですね…災害復旧は出向先のブラック会社の方であるかもしれません。たまに考えるのですが、いざ自分らの地域が災害に見舞われたとき、我々は通常料金で仕事をするのだろうか…それとも災害特別金みたいにボるのか、はたまた逆に利益ゼロレベルで地域貢献するのか。。