2/3　　恵方目指して異世界へ

　「デブにゃん迎えに行ってくるわ」　
　「あ、帰りに恵方巻き買ってきてよ」

妻の一言に思わず飛び退いてしまった。だってそうだろう？恵方巻きと言えば毎年廃棄が凄いだの販売ノルマが問題視されていたりと、一体どこの層に需要があるのだ？という謎イベントの代名詞。

「恵方巻」という名称は、1989年にセブン-イレブン舟入店（広島市中区）の野田靜眞が「大阪には節分に太巻き寿司を食べる風習がある」と聴いて仕掛けたことにより、1998年から全国へ広がり、2000年代以降に急速に広まった。［Wikipediaより抜粋］

一応、元ネタがある地方のイベントらしいのだが所詮は作られた流行、そんなものに踊らされるのは断固として拒否したい…と、妻よ、おまえもそういう考えではなかったのか？

現にこれまで一度も我が家の食卓に恵方巻きが並んだ事なんてないじゃないか。

もともとこういうのが好きだったのかな？と思わされることが多い今日この頃。まあいいさ、恵方巻き一つで我が家の平穏が守れるのなら安いもんさ

　（・・・・え？）

スーパーに行って我が目を疑う。大量に山積みされた半額シールのついた恵方巻きの特設コーナーを想像して行ったのに、そこにはなんと完売御礼の文字が…。

　（気でも触れたか？）

目の前の光景が信じられずに別のスーパーへと向かう。このままではデブにゃんが間違った光景を記憶してしまうではないか。正しい認識を植え付けてやるのが親の努めってもんさ。

　「いまのは何かの間違いだよ」
　「まちがい？まちがいってなに～？」
　「あってはいけない事さ」

そう、先ほどの店はアレだ。ちょっといいスーパーだったからお上品な人たちが流行に乗せられて買ってしまったのだ、きっと。その点次に行く店は安さが売りで、「お値段半分買い物二倍」が謳い文句の大衆店。流行に乗せられる事を良しとしないひねくれものたちの巣窟。ここなら間違いなく…

　（はぁ！？？？）

マジでびっくらこいた。足早に寿司コーナーへと駆け寄り、恵方巻きが残っていると思って一安心したらアンタ･･･、ご丁寧にも「〇〇様ご予約分」という札が「全ての恵方巻きに」乗せられていて、余りはひとつも無い状態。（ちなみに画像はどちらもイメージですが、こういう画像が拾えるって事はどこもかしこも似たような状況って事？）

冷静に考えてちょっと信じがたい光景だ。いくら18時～19時半の一日の終わりの出来事とは言え、さすがに何があったのだと心配になってきた。

　（でもまあ、さすがにコンビニなら…）

セブイレなら残っているだろうと…祈るような怖いような、半信半疑の思いで三店舗分を覗いて見るも、ついにこの日一店たりとも恵方巻きの在庫に出くわす事はなかった。

　（124年ぶりとかいう2月2日の節分のプレミア感が愚民の購買意欲を煽ったのか？）

　（それとも知らぬ間に恵方巻きブームが訪れていたのだろうか？）

　（待てよ？単に予約分しか恵方巻きが作られていない…いや、それにしてもコンビニでさえも一つも残ってないとかあるのか？）

　（あ･･･コロナの影響･･････なんてある？？）

わからん。。苦し紛れに買ったネギトロ巻きさえ困惑しているように見える。

思えばなぜ妻が今日に限って･･･結婚生活七年目にして初めて恵方巻きを食べたいなどと言い出したのか、考えてみれば初めから全てがおかしい。いつの間にか恵方巻きがおせち並みの文化として根付いているパラレルワールドに迷い込んでしまったと言われても納得してしまいそうである。