1/24  濡れ衣ヨシ!

高所作業車で民家の壁面に張り付いていると、トコトコトコと先ほど工事をした家の人がこちらに向かってくるのが見えた。危険危険。脳内で緊急速報のアラームが鳴り響く。

 「なあ、あんたらさっきうちで作業してた人だよね?」
 「はい、そうですが」

下界で交通誘導員に話しかけるおじさんの声が聞こえる。嫌な予感。施行不良でもあったのだろうか?とにかくまあ、一直線に話しかけてきた時点で危険度は星4.5にまで膨れ上がり、ガロなら何とかなるが、僕では駄目だ。

 「なんか、車がぶつかった跡があるんだけど」

 (はぁああああああ?????)

想定を上回る内容に心臓がキュっとなる。

 (おいおいおいおいマジですかい)

年末にやらかしたばかりだ。さすがにこの短期間で二度の事故はヤバイというか終わりというか… 

動悸が激しくなる。血の気が引いていく。楽しかった修学旅行の思い出が蘇る。

 「いやいや、ウチじゃありませんよ」
 
 (!!?)

しかし交通誘導員のオッサンは毅然とした態度で答える。確かに先ほどのお宅の敷地内に入った際はオッサンに周囲をしっかり見てもらっていたし、何より僕自身ぶつけた感覚が全くなかったし…

とは言えまあ、状況的にかなり危ういのは確か。急いで高所作業車から降り、殺人現場…後に本当に僕を殺す事になるかもしれない現場に向かう。

 「あー…」

敷地内に置かれたキャラバンの左後部テールランプの辺りがべっこり逝っていた。確かに先ほどあのキャラバンの隣に車を置いて作業したが…

 (っ!!?)

そうして、凹んだ箇所のすぐ下にはぶつかって飛び散った破片が落ちていた。

それを見て体中のチカラが抜けるのがわかった。先ほどこの場所で高所作業車を置いていた僕がやったとしか思えない状況証拠──破片の鮮度が雄弁にそれを語っている──も、

 「いやー、でもさすがにぶつけたらわかりますってw」
 「!??」

そんな中、ひたすら強気の誘導員のオッサン。この状況で果たして僕がぶつけていない可能性がどれだけあるというのだろうか…が、まあ確かにまだ「確定」はしていないし、オッサンの言うとおり身に覚えが無いと言うのも事実っちゃあ事実だ。

ご主人もまだ僕らがやったと決め付けていないのがありがたい。

とりあえず諸々の確認が必要だろう。自分の車にぶつけた傷や塗料の跡が無いかといった物的証拠、僕以外にキャラバンにぶつけた可能性のあった物体の確認、そもそも傷がいつからついていたのかという話もそうだし、僕の血圧も心配だ。調べなければならない事はたくさんある。

ちなみに僕も誘導員のオッサンも先ほど工事に入った際、あらかじめこの車にぶつかった跡があったかどうかは見ちゃいない。主人が言うにはキャラバンは昨日からこの状態で置かれていて、朝の時点では傷はなかったと思うとの事。

つまり、朝から昼の段階でついた傷という事になる。

 (あっ)

そういえばこの家は造園業?か何かを営んでいるらしく、奥には広い作業場のような建物もあり、中にはフォークリフトの姿も見える。何よりも…

 「あの、昨日までここにあった大きなトラックは…?」
 「ああ、あれはあっちにあるけど」

昨日の夕方、僕が高所作業車を置いた場所にはトラックがあったのを思い出した。それを本日の作業のために移動してくれと頼んだのだ。それを移動したのは恐らく本日午前の筈。

 「さっき調べたけど特に何もなかったがなぁ~」
 「一応自分も調べさせてもらっていいっすか(;^ω^)」

とその前に、キャラバンについた傷の位置を測ってみる。うむ。100~110cmとそれなりの高さの一部分だけが抉られている。バンパーやそういった硬い突起した部分がぶつかったような感じ。

が、僕の高所作業車の左後方部(バック駐車なのでぶつかるならそこしかありえない)にその高さで抉れそうな部分は無く、バケット(箱)部分へ続く足踏み場が100cmより低い辺りにあるだけだった。ボロいので傷の識別には自信がないのだが、一応塗料らしきものもついておらz

 「あー…」

主人のトラックを見たら一発でコレだろwみたいな跡発見。左後部の角っちょに削れたような跡、そこには塗料っぽいのも付着してたし、何より高さがちょうど110cmでピッタリの位置。

 「恐らくですが…コレじゃないっすかね^^;?」
 「あー…言われて見ればそれっぽいか?」

どう見てもそれだろと思っていたが、これもまだ確定はしちゃいないので慎重に… 例えこちらに非が無かろうが、もはや自動車事故関連で事を荒立てたくはないw穏便に済むのが一番だ。

あまりにもパッと見でわかる傷というのもあって、一瞬押し付けようとしたんじゃ…などと邪推しかけたが、地球一列皆兄弟。汝の隣人を信じよ…この広大な敷地を持つオッサンが果たしてそんなケチな事をしますかね?

 「どうも俺がやったっぽいなぁ~wわりいっけな兄ちゃん、仕事中に」
 「いえいえ、こちらこそすいませ…んってのは違うかw」

結局相手方が物証的に自らの行為と認めてくれて一件落着したわけだが、しかしなんと言う刹那のタイミングでこの家に来てしまったのだろう… 何も僕が来る直前にぶつけなくてもいいじゃないか(´;ω;`) (工事のために移動を迫ったからぶつけたとも言えなくもないがw)

最近事故が怖すぎて現場猫並みに様々な箇所で自然と指差し確認してしまう自分がいる。現場作業者としてそれは素晴らしい事なのかもしれないけれど…これを笑っていた頃の自分が懐かしい。

コメント

  1. ドニート より:

    現場ネコ並みってことはザルじゃないですかwwww

    本日も安全作業でガンバロー

  2. umi より:

    そうか、こいつ発声だけいいってキャラだっけw
    うちは今日もゼロ災で行こう、ヨシ!です