【回顧その5】2000年秋 →前回
麻雀やパチスロに出会い半年が経とうとしていたが、このときの比重は麻雀7のパチスロ3ぐらいだったように思う。種銭の乏しさもあったし、それ以上に麻雀が楽しかった時期。仲間内ではほとんど負け知らず状態にまでなっていて、やれば大抵勝つのだ。楽しくないわけがない。
しかしそれは周りのレベル…というより意識の低さと、一人アホみたいに入れ込んでいた僕との熱量の差だったのかもしれない…やがて井の中の蛙が大海を知る日がやってきた。
それは珍しく土曜の練習が半日で終わったときの事…
「おい、うみ。おまえ麻雀上手いらしいじゃん?この後やるか」
「…ッ‼」
いつもなら「いくいく!」というぐらいにはこの頃すでに麻雀で天狗になりかけていた自分であったが、誘ってきたのが上級生の…それも部活内での親玉的な存在の人とあっちゃあ返事も濁る。
この人はK島さんといい、既に引退した三年生ではあるが、某体育大学に推薦入学が決まっていたのでこの時期になっても練習に顔を出していた部のエースであり中心人物。なぜだか僕は入部当初からかわいがられていて…まあだからこそこの日誘われてしまったわけだが^^;
「Yも行くよな?」
「う、ういっす」
(おまえか!???)
そして、一緒に誘われたのはこの頃既に麻雀仲間として確固たる地位を築いていた鬼が嫁のY君であった。というより、同じ中学出身で同じ部活であったK島先輩とY君のラインから僕に白羽の矢が立ったのは明白だろう。そもそもにしてなぜ僕が麻雀にお熱な事を知っているのかという疑問もこれで解決してしまう。
(っていうか行かなきゃダメなのこれ??)
Y君は既に観念しているようで、周りの仲間も僕らに同情の目を向けつつも、巻き込まれないよう必死に知らんぷりを決め込んでいる。聞くところによればこのK島さんは麻雀というか勝負事全般が相当強いと噂されていて、加えて言うなら暴力の方の勝負事もかなりのものだw。我が部活内では「かわいがり」担当と呼ばれ非常に恐れられていた人物である。逆らえるはずもない。
「あと一人は…?」
「友達の家に卓があるからさ、いつもそこでやってるわ」
「友達・・ですか^^;」
その友人とやらはどうやら違う学校の生徒らしいがただただ不気味だ。しかしわれらに拒否権はなく、流されるままどんどん場がセッティングされていく。
「すまん・・うみ」
「…まあ、仕方ないな」
Y君も断れなかったのだろう。言ってみれば彼も被害者。とは言え、この頃の僕はやはり天狗である。それほど強いというならむしろ打ってみたいという想いの方が強く、周りが僕らに投げかける悲壮感とは裏腹に、実は少しばかりワクワクしていたのをこの際白状しておこう。
(あ…(;^ω^))
…その気持ちが勝負の場についた瞬間どこかへ消え去った事もここに白状しよう。
K島さんに連れていかれた民家、なぜか玄関を無視して庭からそのまま雀卓の置かれた部屋へと案内され、ベランダから出迎えてくれた部屋の主はちょうどその頃連載されていた麻雀漫画「哲也」の登場人物である印南に似ていた。ヒロポン中毒のあの印南である。
つまり、相当ヤバそうな男である。
僕ら体育会系の部活とは真逆の、日光を全く浴びていないであろうやせ細った身体に透き通るような白い皮膚。言っちゃあ悪いが住む世界が違う。だが、だからこそいざ雀卓の前に座るとその風貌がそのまま強さの裏返しとばかりに僕らに訴えかけてくるのだ。
「ルールはナシナシ。レートはピンと言いたいとこだが、まあ5に負けといてやるかw」
「!?!?」
挨拶もそこそこにさっそく勝負が始まる。普通、こういう時はみんなでルールを決めるものだが、K島さんはいつも自分たちがやっているルールで当然とばかりに話を進める。もっともK島さんの「場」に来たのだからそれもしょうがないのかもしれないが、ナシナシ(喰いタンなし、後付けなし)という普段やりなれていないちょっと特殊なルールはただでさえ場慣れしていない僕らに重く圧し掛かる。
(せめてレートぐらいは相談させてくれても・・)
とも言えないのが体育会系縦社会のつらいところ。
ちなみに、当時僕らがやっていたレートは点3の5-10ぐらい…つまり千点30円のウマが5千点(150円)-1万点(300円)であった。当時はまだ赤牌も、そもそもチップという概念が無い時代のためこのレートであればハコっても1200円である。
それが点5…つまり千点50円になるとウマにもよるが感覚的には倍ぐらいのレートになってしまう。このときK島さんが示したレートは5の10-20、ハコると2500円という当時の僕にしてみれば結構な高レートである。
(しかしまあ、勝負はやってみなけりゃ…)
開始数十分も経たない内に早くも後悔の念が込み上げてきた。
「リーチ!どれどれ~…」
「(;^ω^)…」
そう、Y君や魚くん達と麻雀をやって驚かされた「リーチ後に相手の手を覗き込む」という文化、思えば同郷の…彼らもK島さんら先輩からそれを受け継いできたのだろう。そうして、悲しいことに先人はさらに想像を超えてくる。
「さーて裏ドラは…っと!!うわっ!!」
「!???」
なんと手を覗くばかりではなく、和了(あが)ってもいないのにリーチ後に裏ドラを覗くではないか!?これは当時の僕からしたら相当にショッキングな出来事であった。
【どうせ和了らないと裏ドラは関係ないんだからイイんじゃね?】
そう思ったそこのアナタ、甘いよ、甘すぎるよ!
まず第一に、「おおっ!」とか「うわっ!やばっ!」とか、そういうリアクションに一々対応しなければならない。第二に、それによって余計な情報が増やされる。具体的に言うと「振ったらヤベエぞ」とか、「飛ぶよ?」とかニヤニヤしながら囁かれるのだw
どうせ振れば同じとも思われるかもしれないが、事前にある事ない事聞かされて、しかもその半分以上が恫喝というか脅迫というかw、しかもただの戯言ではない。
“恐ろしい先輩の”戯言なのだ。
とてもじゃないが無視はできない。
そして第三に(まだまだあるぞ!)、リーチ者が裏ドラを見る事で微妙な選択の余地が生まれる問題。例えばオーラス、ピンフドラ1をリーチしていたとする。トップとは4500点差。脇からの3900出和了じゃまくれないがマンガン出和了、5200ツモならまくれる状況でこの裏ドラ先読みは恐ろしいほどの効果を発揮する。
予め裏が乗ってないのが判れば勝負ロンをする必要がなくなるだけでなく、さらに威圧して相手を降ろす事でツモ和了の機会を増やすことも可能になるのだ!
…とまあ、ここまではまだいい。恐れ多くてほとんどやらなかったけど、この行為は僕にもY君にも許された行為でありそういう意味では公平ではあった。
…が、ここから先がひどかった。
「…><」 ペシッ
「お~っと!!」
「!!」
ある牌を切ったらそれが恐らく当たり牌だったのだろう。大げさに手牌を広げようとするK島さんだったが、徐にその手を引っ込めこう言った。
「しゃーねーな!かわいそうだから見逃してやろうかな~^^」
「え…いいんすか」
「見逃してほしい?」
「そりゃあ…」
「特別だぞ♪」
実際そのとき僕とY君は結構負けてて、印南さんとK島さんの二人勝ち状態であった故の余裕とも温情とも受け取れる見逃しだと思われた。
…が、リーチ後に見逃した以上フリテン扱いになって以後のロン和了が出来なくなるのは麻雀の基本ルールである(中国麻雀はその限りではないがw)。
その局、なかなかツモれないK島さんに終盤ようやく追いついた僕は会心のリーチをかけ…そして当然のように手を覗いてくるK島さん。この時ばかりは僕もK島さんの手を覗いて見たが、、、
(なるほど、メンピン高め三色ね)
見逃したのはド安めの一萬である。恐らく予め見ていて裏ドラも乗ってないのだろう。(例えばこういう時にウラウラで乗ってたら安めでも気持ちよく倒せるのも『裏ドラ先読み』の恐るべき効力である)。今回の場合ただのメンピン2000点で終わらせたくなかった故の見逃し…つまり温情や余裕などではなく、単に自分の事情で見逃したに違いなかった。
対して僕の手、
メンチンの6-9索待ち。すでに見逃したK島さんの当たり牌は場にバンバン切られていて、恐らくほとんど残っちゃいない。僕の待ちは…
K島 「あっw」
どうやらリーチ一発目に掴んだらしい。笑いながら九本の竹が描かれた牌を見せてくる。ドラは無いがリーチ一発メンチンからの倍満スタートである(裏は見てない)。頑張った甲斐があっt
「おいうみ、もちろん当たらないよなw?」
「え!?」
「俺は見逃してやったんだぞ?」
「!???」
ペシッ Ξ⊃
僕はかまわず倒したw
不条理に屈しなかったとかそういうかっこいい理由じゃなくて、単に負けすぎて熱くなってたのでロンの発声を抑えきれなかっただけだ。自棄になっていたと言ってもいい。
K島「マジかよおまえ(;^ω^)」
うみ「ロンです、ロンっ!」
Y君「おい…うみ…それは」
この行為の是非は問わない。
が、卓上では白けた空気が漂い、Y君でさえもそれはねーわという表情。当のK島さんはもちろんそんなの認めないぞとばかりに笑ってる。いや、目が笑ってない。
「さすがにそれは人としてどうかと思うよ^^;」
場主である印南の発言で決着がついた。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
・
帰り道、僕は心底自分が嫌になっていた。
確かに裏ドラ先読み等ふざけた条件が混じってはいたが、あくまでそれは遊戯の中の出来事で、僕らだってやっても怒られなかっただろう。単に遠慮と配慮でそれをしなかっただけで、麻雀の負けは別の話… いや、負けはこの際仕方がない。
あのロンだ。
一人熱くなって醜態を晒してしまった後悔の念。土壇場でこそ人の本性が現れるというが、初めてここまでメタクソにやられた結果、ああいう醜いことを(?)平然としてしまえる自分がいたことを知ってしまったショック。麻雀の負けも悔しかったが、それ以上にあの行為が恥ずかしかった。例えK島さんの見逃しが自分都合だったとしても、あの場であの行為はルールはともかくマナーの上で許される行為ではない…
(こんな思いまでして金まで取られて何やってんだ俺(´;ω;`)…)
絶望に打ちひしがれながらの帰り道。胃の当たりがずーんと重くて、頭も霞がかったように何も考えられない。暗い夜道をノロノロとチャリンコで漕ぎながら、もう学校に行きたくないなとか本気で考えて、もうギャンブルをやめようかな、なんて…
このときの思いが一過性のものでさえなければと、後年思い返したところで意味はないw
何だかんだで5000円ぐらいしか負けてないのだが、この日の負けはパチスロで三万負けるよりもずっしりと重かった。天狗の鼻だけでなく、心までポッキリと折られてしまったのだ。
この日を境に麻雀熱が少し冷めたのは当然の成り行きだろうよ。
コメント
そんなピンフのみ見逃すだろね、裏ドラ乗ってなけりゃ
というか追っかけリーチするからそうなるわけでしれっとロンすれば
あぁ、見逃して貰ってましたけど、すいませーんw
ってなれるような、
まぁお疲れ様としか言えないですな
リーチせずにはいられなかった><
シレっとロンしても結果が変わったとは思えんがなw