8/10　　友人価格で世を知る

　「うみさん、最近エアコンやってんすよね？実はうちのエアコン調子悪くて…」

先日、ブラック会社の班員の子からエアコン修理を頼まれた。僕も何だかんだでこの二ヶ月ほどベテランのオッサン達に付いて回っているので、一応見様見真似で一人で取り付けぐらいは出来るようになってはいるが、修理となると話は別だ。

修理というのは原因の特定から始まり、原因の特定とはあらゆる可能性を消去していく事で行う。そしてあらゆる可能性を考慮できるほど僕はまだこの分野に精通しちゃいない。つまり、これは取り付けが完璧に出来てかつ、エアコンそのものの仕組みを理解していないとどうにもならない上級分野なのである。

けれどまあ、頼まれたからと言って僕が一人でやる必要もないので「会社として」なら受けないわけにはいかない。

　（しかしわざわざ言ってきてくれた手前、お友達価格にはしてあげたいよなー）

なんでも彼のとこのエアコンの調子の悪い理由はハッキリしていて、どうもガスが抜けているらしい。

詳しい話を聞いた感じ、引越しの際に兄の友人らが以前住んでた家から外したエアコンをそのままつけてくれたそうで、恐らくだがその時の配管接続か何かが拙くてガスが抜けてしまっているのだと思う。だとすれば新たに接続部を作り直すか、または配管の総とっかえで直るだろうと見越しているが…

ちなみにエアコンのガス抜き・ガス入れと言えばちょうど先日講習を受け冷媒回収業の資格を取ってきたばかりである。

　（おー、ちょうど実践できるじゃん。勉強になるな(ﾟ∀ﾟ)）

というわけで、なんならガス代だけで施工料はまけてあげてもいいかなと行ってみたのが土曜日の事。一応予期せぬトラブルも考え保護者（社長）にも付いてきて貰ったのだが…

　（おうおうおう（；＾ω＾））

画像はイメージなのだが、これよりももっと、木の根のように神秘的な超自然現象的な曲がりを誇る見るも無残な配管がそこにはあって、社長さんも思わず「こんな酷えの初めて見たわ（；＾ω＾）」と呟くレベル。

どうやら話に聞いていた「以前の家からそのまま持ってきて付けた」というのが、文字通りそのまま…配管を室内機から外さずにぐにゃぐにゃに折り曲げてそのままトラックにでも積んで来たのだろうか？それぐらい素人仕事。

　「どう見てもここだね」

僕でもわかる。特に曲がりが酷かったところの断熱材を切ってみると、中の銅管が案の定折れていて原因の特定は完了。しかしながら、エアコンの取り付け方が酷くて配管を変えればいいだけという問題でもないようだ。

　「物も古いし、こりゃ新しいの買った方がいいよ」

シャッチョさんの一声で答えは出た。　

僕だったらとりあえず頑張って配管を変えてみたのだが、それだときっと余計な仕事を増やしただけだったろう。ここらへんは経験だな、念のため付いてきてもらって良かった。

　「最悪配管変えれば何とかなると思ってたんですけど、そんな簡単な話でもないんですね～」
　「ねー、同感」

それにしても、僕もこの仕事をする前までそうだったのだが、実際にエアコンの配管と言ってもピンと来ない人が多いと思う。これまでの話を読んでいてイメージがつきづらかった人もいるのではないだろうか。配管とは正しくエアコンの室内機と室外機を繋ぐ管の事を指しているのだが、気にした事のある人なんて稀だろう。

世には配管マニアなる人もいるらしいし、意識して見るとなかなか面白い世界だ。

　「で、どうします？新しいのにします？」
　「ええ、それじゃあそのままうみさんとこに注文って形にして貰っていいですか？」
　「ええですよ。じゃあエアコンのメーカーやサイズの希望など…」
　「おい、馬鹿野朗うみ！ちょっと来い」
　「？？」

実際に注文を受けるのは初めてなのでとりあえず色々聞いておこうと思ったら社長から怒られたｗそんな客の希望なんて聞いてたら今の季節何週間待ちになるかわかんねーぞという事らしい。大体こういうのは取り引きのあるお得意先の電材屋などにあるものを取り寄せるのが一般的なのだそうだ。

　「え？じゃあメーカーも型も決められないんですか？？」
　「決めたきゃ家電屋で注文すりゃあいいだろうが」
　「と、言われてもなぁ…」

実際にこの季節はどこもエアコンは品薄状態。さらに取り付け工事もセットとなると普通に夏の終わりと競争になってしまうらしく…早くやりたいならあるものを付ける他無いのだ。

　「自分は別にいいですよ？特にこだわりは無いんで」　
　「そうですか、じゃあ在庫確認してみますわ」　

と、言うわけでとりあえずお得意先の電材屋さんに確認をしてみると、一応三菱のちょっとイイのが残っていたのでお値段を聞いて…ふむふむ。

　「なんか今、50800円のと58900円のがあるみたいですけど」
　「じゃあ50800円の方でお願いしたいです！」
　「わかりました。じゃあそれに取り付け費用をプラスしたのが代金だと思ってもらえれば」
　「馬鹿野朗うみっ！おまっ（；＾ω＾）」

これも後で社長から怒られたｗ

確かに言われてみればそうなんだけど、問屋から卸した品物をそのままの値段で売る商店はどこにもない。取り付け費用は当然取るが、それは純粋な作業料であり、注文の元請となったからにはしっかりと品物にもマージンを乗せなければならないのだが…僕にはその感覚が全くなかったようで＾＾；

実際に後に価格.comで同じ商品を確認すると、大体最安値でも56800円ぐらいのようだ。

　「どうすんだおめー。ほとんど儲けゼロじゃねえかこれ（；＾ω＾）」
　「これも勉強っスね」

結局今回の工事、その他諸々も含め普通に受注した場合と比べて30％くらい安くなりそうでｗ図らずも超友人価格になってしまったが、僕も別の場所では逆に友人価格でとんでもなく色々面倒を見てもらっていたりするし…

　（持つべきものは友だなぁヾ(≧ω≦)ﾉ）

…などと、こんな能天気な感想を述べるだけの僕はもういないだろう。社長が昔、知り合い案件が一番面倒だと愚痴をこぼしていたが、ようやくその意味が少しわかった気がするｗ