1/14　　はじめての事務所

閑静な住宅街の中、突如現れる異様な佇まいの建物。目線を遮るどころか逸らさせるような威圧感のある塀に囲まれ、分厚そうな扉、重厚なシャッターが下ろされた門の周囲には監視カメラの山山山。明らかにカタギではなさそうな雰囲気を醸し出すそのお隣が、本日の現場でございます＾＾

平然と呟くおばさん。お隣に住むってどういう気持ちなんだろう。もしやこのおばさんも関係者だったりするのだろうか…いや、でもまあそういう人たち程礼儀はしっかりしているのかもしれないし、特に近隣住民には気を使っているのかもしれないが。

帰りたい。帰りたいが、別に何かされたわけでもないのでそうもいかない。

連れていたガードマンのおっちゃんに一応聞いてみるも、彼も帰りたそうだｗ

本日の業務は電線の張替えである。先ほどのイラストの中で赤い線で描かれた部分を改修（張り直し）する工事なのだが…　この近辺の対象はこの家だけなのでささーっとやれば何とかなる気もするが、、一応高所作業車を使うので音も出るし、普通に工事をするときだって周辺の家へ一言断りを入れるのが通例である。

いくら怖いお兄さん方の事務所とは言え、さすがにスルーするわけにもいくまい。

　「と言うわけで、小一時間ほどお隣で作業させて頂きます」
　「わかりました」

意を決しインターホンを押したら瞬間応対されて心臓が止まりそうになったがｗ、ある意味イメージ通りでさすがだなとも思ってしまった。断りを入れたのでもうやるしかない。さっさと終わらせてしまおうと高所作業車に乗り込み、電線の引き留め点である二階壁面部に向かいブームを伸ばしていくと、当たり前だが高度が上がり、すると今まで目隠しをしていたあの重厚な塀を飛び越える事となるのだが…

──国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

　（ちょっｗｗｗｗｗ）

そんな一節が脳裏に浮かぶような、長い塀を超えた先には…ガラス張りの組事務所の姿があったｗ

中にいる怖いお兄さん方（ガチで怖い）、奥に見える和服の人は親分だろうか？全員がこちらを見ていて、そのまなざしからは単なる好奇心以上の何かを感じずにはいられない。

一般家庭のそれとは明らかに違う反応に、もし今懐に手でも突っ込もうものなら本気で銃口を向けられるのではないかという好奇心すら芽生えたほどだｗ

しかしなるほど、考えてみると確かにシチュエーション的にここから親分を狙う鉄砲玉がいてもおかしくはなさそうである。

よくドラマや漫画でも清掃員や工事業者に扮して…なんてのがあるが、正しく今自分がその状況に置かれているのだとここで初めて気が付いたｗ

ペコっと会釈してみたら、ペコっと会釈が返ってきたｗ

…と同時に、心底先に挨拶しておいてよかったとも思った（；＾ω＾）

会釈の間際にチラっとしか見えなかったが、それでも一瞬で感じた「ザ・組事務所」という感じの内装には興味津々であったが…さすがにもう振り向けない＾＾；

どころか、作業中は背後に視線とも死線ともわからぬ何かをビンビンに感じながら、久々に緊張感を持って仕事に向き合えた。